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ガバメントクラウドでAWSが選定された背景・技術仕様・自治体移行実態をGCInsight編集部が解説。国産さくらとの比較も。
2021年10月26日、デジタル庁はガバメントクラウドの第1号事業者として2社を発表しました。AWSとGoogle Cloudです。国民に最も近いインフラ——住民票、年金、税、福祉——がアマゾンの基盤に乗ることが決まった瞬間です。
選定条件は350以上の技術要件。クラウドサービスを提供する事業者が一定期間内に全ての要件を満たすことを確認した上で採択されます。当時、その全要件を初回で満たしたのはAWSとGoogle Cloudの2社だけでした。その後、Microsoft Azure(2022年)、Oracle Cloud Infrastructure(2022年)が追加され、国産では2023年にさくらインターネットが初の国内事業者として選定されています(出典: デジタル庁 ガバメントクラウド事業者一覧)。
なぜ自治体はAWSを選ぶのか。選ばれ続けるのか。
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2026年4月時点でガバメントクラウドの認定CSP(クラウドサービスプロバイダー)は5社です。
| CSP | 選定年月 | 国内事業者 |
|---|---|---|
| Amazon Web Services(AWS) | 2021年10月 | 外資 |
| Google Cloud | 2021年10月 | 外資 |
| Microsoft Azure | 2022年 | 外資 |
| Oracle Cloud Infrastructure(OCI) | 2022年 | 外資 |
| さくらのクラウド | 2023年11月 | 国産(初) |
デジタル庁の移行状況データ(2026年2月27日公表)によると、34,592システムのうち移行完了は13,283件(完了率38.4%)。先行事業から本格移行へと局面が移る中、実務でAWSを選択する自治体が依然として多数を占めます。その背景には「最も実績が多く、パートナーSIerが豊富」という現場の論理があります。
さくらのクラウドは、2026年1月〜3月に残りの技術要件を順次クリアする計画で進んでいます(デジタル庁 開発計画 2024年9月末現在版)。ただし本番環境での実績はまだ積み上がりの段階であり、大規模自治体ではAWSを主軸に据えるケースが続いています。
「AWSを採用した行政システム」と言われてもピンと来ない方に向けて、民間の文脈に置き換えます。
Amazonは世界最大のECサイトであり、そのバックエンドを支えるインフラ企業でもあります。楽天、Netflix、Airbnb——名だたるサービスがAWSの上で動いています。「大手ECが使う基盤を、行政も使う」という構図です。
選定理由を3つに整理します。
1. 実績と信頼性 AWSは2006年の商用開始以降、金融・医療・防衛を含む世界中の規制産業での稼働実績を持ちます。デジタル庁が求める「ISO 27001」「SOC 2」「FedRAMP」等の第三者認証を全て保有しており、監査・証跡管理の仕組みが既存です。新しいものを使う不安が少なく、SI事業者もノウハウを持っている——これは小規模自治体にとっては特に重要な選定要因です。
2. 東京・大阪の国内リージョン限定設計 日本のガバメントクラウドでは、自治体データの保管リージョンを東京と大阪に限定する設定が適用されます(AWS公式FAQ)。「自治体のデータをAWSが勝手に国外移動させることはない」という契約上の担保があります。なお、AWS GovCloudは米国政府機関向けの別サービスであり、日本のガバメントクラウドとは無関係です。この点は混同されやすいため注意が必要です。
3. ガードレールと払い出し設計 デジタル庁はGCAS(Government Cloud Assistant Service)を通じてAWSアカウントを払い出します。このアカウントにはデジタル庁が定めたセキュリティガードレール(予防的制御と発見的制御)が自動適用されています。監査ログの削除防止・異常検知・不正アクセス遮断が仕組みとして組み込まれており、自治体側が個別に設計する必要はありません。
デジタル庁「地方公共団体標準準拠システムのガバメントクラウド移行に係る手順書(第3.0版、2025年3月)」が定める標準的な移行フローは以下の4段階です。
フェーズ1:GCAS利用申請と環境払い出し マイナンバーカードによる本人確認を経てGCASアカウントを開設。物理MFAデバイスを設定後、AWSアカウント(個別領域)が払い出されます。
フェーズ2:回線手配と接続確認 自治体の庁内LANとガバメントクラウドを閉域で接続します。AWS Direct ConnectまたはVPNが使用されますが、閉域マルチアカウントのネットワーク設計は技術的な難所として実務担当者からの言及が多い部分です。
フェーズ3:テンプレート適用と移行作業 ベンダーがデジタル庁指定のセキュリティテンプレートを適用し、標準準拠システムを本番環境へ移行します。並行稼働期間を経て切り替えを完了します。
フェーズ4:運用・監視・最適化 移行後もコスト最適化は継続課題です。オンプレミスのシステムをそのままクラウドへ「リフト」した場合、年間コストが移行前比2倍以上になる事例が報告されています(後述)。
国産クラウドとして初めて選定されたさくらのクラウドとAWSを比較する観点を整理します。
| 観点 | AWS | さくらのクラウド |
|---|---|---|
| 選定時期 | 2021年10月(初年度) | 2023年11月 |
| 技術要件充足 | 全要件クリア | 2025年度末に完了見込み |
| 国内リージョン | 東京・大阪(国外転送禁止) | 石狩・東京・大阪 |
| データ主権 | 契約上の担保あり | 物理的に国内完結 |
| SI事業者エコシステム | 国内多数(AWSパートナー多数) | 発展途上 |
| 為替リスク | USD建て(円安リスク) | JPY建て(リスクなし) |
| 実績(本番環境) | 多数 | 段階的積み上げ中 |
さくらのクラウドの最大の強みは「物理的なデータ主権」です。データが国内サーバー上にのみ存在することを証明できる点で、安全保障上の懸念がある業務では有力な選択肢になります。一方で、SI事業者のノウハウ・実績という観点ではAWSに軍配が上がる現状です。
円安の進行(1ドル100円→150円台)により、AWSのコストは実質1.5倍に上昇しています。コスト観点では国産クラウドへの関心が高まっており、今後の競争環境が変化する可能性があります。
自治体のガバメントクラウド移行に関わった実務担当者による記録(note.com)には、以下のような指摘が残されています。
「自治体のガバメントクラウド移行においては、AWS側だけでなく、オンプレミス側のネットワークとの連携の部分もしっかり理解していないと、システムのネットワークの全体像を理解することはできない」 —— note.com
takedah氏「多くの人に助けられながら地方自治体でクラウドに挑んだ 2025 までの振り返り」
「移行後も最適化のためコスト監視をし続け、改善を提案しなければならない。改善に対応経費を要求されたら、自治体の単費で負担する必要がある」 —— note.com
888_hachi3tsu氏「都道府県別にみるガバメントクラウド利用状況調査」
これらの声が示すのは、「AWSに移行すれば終わり」という認識の危険性です。移行はスタートに過ぎず、継続的なコスト管理と技術人材の確保が不可欠です。
GCInsight編集部は、ガバメントクラウドにおけるAWSの地位を「当面揺るがない基準点」と分析しています。
理由は3点です。第1に、2021年からの先行事業期間を通じて蓄積されたノウハウとSI事業者のエコシステムは、後発CSPが短期間で追いつけるものではありません。第2に、デジタル庁が公開する手順書・GCASガイドの多くがAWSを前提に書かれており、担当者がAWS環境を選ぶことの学習コストが最も低くなっています。第3に、350以上の技術要件を2021年初回で全てクリアした事実は、AWSがこの市場に本気で投資していることの証左です。
一方で、さくらのクラウドが技術要件を完全充足した後の競争環境には注目しています。円安によるドル建てコストの上昇、データ主権への関心の高まり、そして国産産業の育成という政策的意図——これらが複合的に作用すれば、2027年以降の新規移行案件では選択肢の多様化が起きる可能性があります。
自治体の担当者が今すべきことは、CSP選択の最終判断を先送りするのではなく、移行後の「コスト管理体制」と「技術人材の確保」に先に投資することです。どのCSPを選んでも、クラウドの運用は「初期構築で完結する工事」ではなく「継続的なエンジニアリングが必要なサービス」であるからです。
本記事では「なぜAWSが選ばれたか」「移行フローはどうなっているか」を解説しました。次に読むべき記事を以下に案内します。
ガバメントクラウドへの移行を検討する自治体担当者は、「自治体クラウド」との違いも把握しておくと理解が深まります。→自治体クラウドとガバメントクラウドの違いをわかりやすく解説
GCInsight編集部
ガバメントクラウド・自治体標準化を専門に調査するリサーチチーム。デジタル庁・総務省公表データを一次資料として継続的に分析し、自治体DX担当者・ITベンダー向けに実務情報を提供しています。
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